小学校でランドセル禁止令が出た!代わりに意外なもので通学させられた話

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一人、どうしようもないわがままがいる。6年1組には。「明日からランドセル禁止します」亜美先生は終わりのホームルームで突然言い放った。クラス中から反対の意味の「えーっ」が鳴り響く。

「先生、リュックはいいのですか?」クラスの男子が質問をする。「リュックもランドセルも全部ダメ」亜美先生の大きな目が、ダメと言った瞬間飛び出すかと思った。

男子が続けて質問をする。「教科書や荷物はどうやって持っていけばいいんですか?」亜美先生は、教壇の真ん中に立ち腕組みをするとこう言い放った。

「明日から全員風呂敷で通学しなさい」

クラス中が「ガヤガヤ」しだした。それぞれの生徒は、周りに不満をもらしている。「風呂敷なんてないです」クラスの中の誰かがつぶやいた。「絶対に、どんな家にも、必ず1枚は、風呂敷がある」亜美先生の一言一句に力がこもっている。

「昔はみんな風呂敷で通学したから、親のお古あるよ」亜美先生の顔は、シワのないパグのような優しい顔をした女性だ。この時は闘犬のごとく鼻息荒くしゃべっていた。

「明日からランドセルやリュック持ってきたら、窓から投げ捨てるからな」脅しのように聞こえるが、先生なら本気でやりかねない。

バレンタインデー禁止令がでた時、チョコレートを教室にある辞書の空き箱の中に隠していた女子がいた。抜き打ち検査はうまく回避したが、亜美先生は一枚上手でチョコを見つけ、その子の目の前でゴミ箱に勢いよく叩き捨てたことがある。

僕は思った。「家に風呂敷がなかったら、6年間使いなれたランドセルともお別れだな」

「頭はハッキリ、お腹はスッキリ、背骨はしゃっきり、さようなら」生徒達の反論をこれ以上許さず、いつもの名言とともに強制的に帰りのホームルームを終えた。

無いと思っていた風呂敷は、家のタンスの底に眠っていた。事情を説明した母には「また、あの先生おかしなことはじめたね」と、あきれられる。

「ほら言っただろ。みんな風呂敷あるじゃないか」ランドセル禁止令が出た次の日の朝のホームルーム。亜美先生は、みんなの姿を見回しながら言った。先生の言ったとうり、どんな家にも必ず風呂敷があったのだ。わざわざ購入した生徒はいなかった。ランドセルも投げ捨てられずに安心したに違いない。

「では、1時間目から特別事業を行います」手伝いのため何人かが先生と教室をでた。亜美先生の時間割は変わっている。決まった時間割を無視して、突然ベーゴマをはじめたり、弓を一から作ったり、びっくりしたのは、授業中に闇鍋をはじめたこともあった。

本来やらなければいけない授業は別の日、1時間目から4時間目まで、休憩なしで勉強をして時間を作るのだ。大学生になると授業が長いというが、小学生から十分に授業は長かった。

手伝いに出された生徒達が、机の上に色々なものを並べる。「風呂敷で自由にものを包みなさい」それだけ言うと椅子に座り、生徒がどうするかを見守っていた。

その時、生徒達は何をしているかというと、真面目に風呂敷で包み方を研究する人もいれば、唐草模様の風呂敷を頭からかぶりどろぼうごっこをはじめる人もいれば、風呂敷をマントにしてヒーローの真似をする人、風呂敷を武器がわりに戦う人、様々。

僕は様々なものを包み試した。どうしてもうまく包めないのが、机の上に並んだ一升瓶2本。これをうまく風呂敷でて包む方法を考えていた。この時間が、給食の時間まで続いた。

風呂敷は魔法の布だった。どんな物でも風呂敷1枚包んでしまうと、あら不思議。包むものの大きさ、形、結び方で、毎回違うものが出来上がる。1枚の風呂敷が、変幻自在に形を変えるのだ。

その時の気分によって、カバンをを変えて出勤する大人がいる。1枚の風呂敷は、物の形、結び方、包み方だけで、毎回違うカバンに変化するのだ。もちろん、風呂敷自体の柄を変えてしまえば、さらに無限の変化が起きる。包み方と、結び方を変えたら、肩掛けのバッグにまでなる。

ランドセルはいつも同じ色、同じ形。中になにが入っているかも、外からではわからない。しかも重い。気分によって、ランドセルを変えることもできない。そんな子供は当時いなかった。

亜美先生は、ランドセルという決まり決まったカバンにこだわるのではなく、風呂敷という1000年以上の長い間使われてきた布で、自由に考えて、自由に包んで、お金をかけずおしゃれを楽しみ、身軽に、自由に通学してほしかったのではないか。

亜美先生がなぜランドセルを禁止したかの真意はわからなかった。亜美先生は聞いても答えてくれない。「自分で答えを出せ」という事かもしれない。

亜美先生は、決まり切った授業をやるのではなく、生徒自身が自分の頭で考え、自分で工夫して、自由に楽しく遊ぶこと、それを勉強だと考えている。

先生の役割は、面白そうな遊び道具を生徒に提供すること。後は、自分で学びなさい。危険がないように見守っていてあげるから。それが、亜美先生の授業方針だ。

2週間ぐらいすると、どういうわけか風呂敷禁止令がでた。おそらく、親、校長、他の先生、方々から苦情が殺到したと思われる。似たようなことは何度かあった。亜美先生も不満に思っていたと思う。ただ、生徒の前で一切不満な顔を見せない。

「頭はハッキリ、お腹はスッキリ、背骨はしゃっきり、さようなら」いつもの挨拶をした後、亜美先生はこう付け加えた。

「明日は各自ジュースを持ってくるように。試験管でアイスを作るから」遊び道具という名の勉強道具の提供は終わらない。

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