見ちゃダメなものを見たら、人生で一番古い記憶はトラウマになった

体験・取材・調査

人 倒れる 音 効果

人生で一番古い記憶は「ドシーン」という轟音からはじまった。

幼少期の記憶をたどりたどり思い出していくと暗闇が見えてくる。その暗闇をしばらく凝視していると、「ドシーン」という音が耳元で聞こえてくる。そこから僕の一番古い記憶、一番最初の記憶ががはじまる。

その音は館内全体に響き渡った。衝撃波のような音の波は、僕の体の中を揺らしていた。音がなった瞬間一瞬だが地震のように縦揺れをした。音が消え、揺れが収まると、一瞬静寂した。その後すぐ、まわりにいた人間が騒ぎ始めた。「なんだ、何が起こった」「地震か」轟音のように放射状に広がった重低音は、人を音の中心に集めるだけの力があった。

当時5歳ぐらいだったと思う。両親に連れられて買い物に来ていた。忘れもしない。街の中心部に有る地下1階にあるスーパーだ。「ドシーン」の音の次に視覚情報が思い出される。たくさんの商品が並んでいる棚と、人混みに並ぶ人間の足。背の低かった僕には、すべてが大きく見えて、人混みに並ぶ人間の足は森のように見えた。

森の間を抜けて、音の中心に向かった。その時、両親は静止するようなことを言っていたきがする。体が小さかったおかげか、誰よりも早く音の中心に向かうことができた。音の中心はレジの前の広いスペース。もうすで音の中心部近くにいた人が集まり、人の輪ができていた。

何かを中心に大人たちが集まっていて、その中心に向かうことがなかなかできずにいた。中心に向かうには、さらにたくさん集まった大人の足の間をすり抜けて通らないと行くことができない。森の間を自由に動く野うさぎのように、地面を這いつくばるようにして人の輪の中心に入った。

輪の中心には人間が倒れていた。身長は180センチぐらいあっただろうか。お腹はぽっこり出ていて、体重は90キロ以上あるように見える。大柄のクマのような中年男性が倒れていた。ただ倒れていたわけではない。口からすごい勢いで泡を吹き続けていた。吹き出した泡は口から溢れて、スーパーの床に泡が溢れていた。よく振った炭酸ジュースが吹きこぼれ続けるように。意識もなさそうで、目は白目をむいていた。幸いなことに血はでていなかった。

「ドシーン」という音の正体は、この大柄の中年男性が、立った状態から力なくそのまま水平に倒れた瞬間に発せられた音だとわかった。信じられないことだが、身長約180センチ、体重約90キロの人が力なく倒れると、スーパー全体を揺らし、倒れた瞬間衝撃波のように放射状に広がる轟音を発するのだ。ビルが倒壊したようだった。人が力なく倒れる音は。

まわりにいる大人たちは「救急車」「これはやばいかもな」といろいろ言っていた気がする。僕は口から絶え間なく泡を吹き続ける男性を見て「カニみたい」と思った。

倒れる男性の目の前で立ちすくむ僕を、遅れて来た母親が見つけて「見ちゃダメ」としかりつけ、輪の中心からむりやり離された。そこで人生で一番古い記憶は終わる。

人生で一番古い記憶は人それぞれあると思う。楽しい記憶、嫌な記憶。人によっては生まれる前の記憶、母親の胎内にいたときの記憶がある人もいるぐらいだ。

自分の人生を振り返って、人生で一番古い記憶が、泡を吹き続ける大柄な白目をむいた中年男性というのはなんだか物悲しい。まだ背の低かった僕にとっては、本当に目と鼻の先でで泡を吹き続けているの男性を見てしまった。忘れられる事はできない。いまだにハッキリと映像が浮かぶ。トラウマレベルの映像として。

思えば「ドシーン」の衝撃音の時点で、親に制してもらえばよかったと思う。すばやい子供を静止するのは難しいかもしれない。「見ちゃダメ」と親は言ったが、もうしっかり目に焼き付いている状況だった。

「泡を吹き続ける大柄な白目をむいた中年男性」というタイトルの映画を見に行って、映画の途中で「見ちゃダメ」と言われているようなものだ。

本当に見ちゃダメなものに、子供を近づけないほうが良い。突発的なことがあっても、できるだけ想像力を働かせ予想して。触らぬ神に祟りなしだ。「見ちゃダメ」と親が注意して言っている時点で、たいていもう子供は見ているものだ。その記憶は一生涯残るトラウマになるかもしれない。

人生で一番古い記憶が良い記憶になるためには、幸せなで楽しい毎日と、見てはいけないものに近づかいない親の力がかかっていると思う。

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